2020年12月14日

お寺のスペース貸し出し―他者との交流、寺院活性化に生活の身近に「仏教」届ける―

東京都台東区・厳念寺

東京の下町、台東区蔵前にある浄土真宗単立厳念寺(菅原建住職)では仏教教室の開講、福祉団体への施設提供など、お寺を活性化する取り組みを行っている。菅原耀副住職(29)はお寺が身近にある生活を再考する「あの寺プロジェクト」も始まった。「生活の糧」となる仏教を知ってもらうため、家族や仲間の協力を得ながら新たな取り組みにチャレンジしている。
厳念寺の門を入ると誕生仏を安置した季節外れの「花御堂」が参拝者を迎える。新型コロナウイルスで外出自粛中の今年5月、「手を合わせる場所が必要」と、設置すると、定期的に参拝者が訪れるようになった。菅原さんは「ずっと誕生仏が置いてあるお寺になるかもしれないですね」と笑う。

普段の生活の中にあるお寺

菅原さんは社会福祉士などの資格を持ち、「遺族の方にどう対応したらいいか悩んでいた」とき上智大学グリーフケア研究所で学び、認定臨床傾聴士の資格も取得した。チャプレン教育のベースとなる傾聴トレーニングは貴重な経験になった。「他者理解には自分自身の理解も必要です。他者の感性に耳を傾け、自分自身を客観的に見つめていく作業は自分にとって身体全体を使うワーク。浄土真宗には禅宗のような身体を使った行が少ないので自分の体を通して他者との関わりを勉強できたのは良い時間でした」
研究所を縁に友人となった小林正昭さんと、お寺がある生活を再考するための「あの寺プロジェクト」を始動。仕事帰りにお寺の本堂でコーヒーを飲み一人の時間を過ごしてもらう「よるてら」、「自分の支え」を発見するカードワークショップ「ココロスケープ」などを開く。京都・東山の禅居庵(臨済宗建仁寺派)で開催されている「はじまりの絵本」展に感銘を受け、「みんなで作る下町絵本展」も企画。好きな絵本を選んでもらい、選定理由を書いたカードと一緒に展示する。「絵本を選ぶ過程で、自分の大切な物事に気づくきっかけになる」と菅原さん。これまで6人の絵本が届いているが、50人分集まったら展示会を開く予定だ。

手作り料理付の仏教講座

 ケネス田中氏(武蔵野大学名誉教授)を講師に開く「仏教教室」は好評で3年が経過した。穏やかな人柄とユーモアを交えた独特の語り口が人気で女性の参加者も多い。登録者は約60人だったが、新型コロナの影響で5月からオンラインに切り替えると遠方からの参加者も増えた。「仏教は葬儀のイメージが強いけれど自分たちの生活に身近なものです。もっと仏教のイメージを広げたいし、仏教に何かを求めて来てくれる方たちの姿が自分にも大きな刺激になっている」と菅原さんは話す。
この仏教教室にはもう一つの魅力がある。それは講座後に皆で食事を共にする時間だ。現在はコロナの影響で休止中だが、温かな雰囲気で気持ちがほどけ、自然と話しが深まる。
参加者40~50人分の食事は、なんと母の久子さんが一人で準備するというから大変な労力だ。久子さんは「私にとって行です」と言いつつ、「いつも悶々としながら作るけれど、皆さんが喜んでくれ姿が大きなリターンで、毎月この繰り返しです」と笑う。食事をしながら参加者同士の関係が築かれていく姿を見て感動も覚える。「仏教教室が始まった時に、副住職のご縁でグリーフケアの方が参加してくれました。おかげで食事の時間にプライバシーの問題や大事な話題でも安全に語れる場ができた」
福井県の真宗寺院出身の久子さん。夏は本堂を開けっ放しで「誰かがお昼寝をしている」という光景を懐かしみ、「お寺は広いスペースがある。防犯の問題もあるので難しいとはいえ有効活用したい。単身の高齢者が増えていますが、そういう方の行き場になれたらと思う」と話す。この思いは家族でも共有している。
厳念寺では約5年前から、社会貢献活動をする団体などに、寺の施設の無償貸し出しを始めた。社会福祉協議会と協力し、チラシを作って発信。以来、高齢者の定期的な集まりや地元の子育て支援NPOのイベントなどが催されてきた。コロナ禍の6月から月に1度、この子育て支援NPOと協力し、食糧を無料配布する「フードパントリー」を実行。これまでのネットワークが緊急時にも生かされた。菅原さんは「無理なく始められて難しくもない。縁を作るスタートになる」とおススメする。「実際に施設の貸し出しを始めたことで交流が増えました。お寺にいるだけでは会えない人に会い、多くの刺激を受け、お寺の場の活性化につながっている。一人ではできないことばかりだからこそ、色々な方と協力し、今の時代にあったお寺の役割を果たしたい」と手応えを口にした。

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