2020年12月15日

従来の仏事を見直し、その価値に光

横浜市戸塚区・妙法寺

日蓮宗妙法寺(神奈川県横浜市戸塚区)の久住謙昭住職(41)は従来からの仏事を見直し、その意義を丁寧に伝えるための取り組みを通じて「人々のためのお寺づくり」に励んでいる。エンディングノートや葬儀の経典本、漫画「おぼんのおはなし」の監修、オリジナルのお守づくり、生前法号の授与、心をみがくための「浄心道場」などなど。寺院仏教が持つ価値に光をあてた取り組みは新たな寺院づくりへの挑戦でもある。

「エイジングノート」

 「亡くなってからではなく、生きている時から関わりたい」との思いを込めて作ったエンディングノートは「エイジングノート」と命名した。自分の人生と向き合う(エイジング)ためのノートで、家族へ思い、これからしたいこと、介護や病気の際のお願い、お葬式のことなどを記してもらう。
編集には自身の体験も反映した。31歳の時に師僧の父が急逝。「聞いておきたかったこと、父も言っておきたいことがあったと思う。書き遺してくれていたら、きっと生きるための指針になった」。逝った者と遺された者の想いをつなぐ、そんなノートにしたかったという。仏教は生老病死という四苦八苦に向き合う教え。「終活」にも「もっとお坊さんが前向きに関わっていかないといけない」と久住住職は考えている。
檀信徒には「生前法号」の授与も働きかける。「人生100年と言われる時代。退職後に、残された時間をどう生きるのか。仏弟子としてどう生きていくかを考えてもらえるような法号をさしあげる」。まさに檀信徒を本当の「仏教徒」にする実践でもある。

宗派を超えた僧侶たちとの交流

 住職になったばかりの頃は、宗内で要職を務めた父のようにならなければとの思いも強かった。実際に、父に倣って宗内役職も経験したが、その仕事に追われるうちに「誰のための仏教なのか」と迷うこともあった。そんな時に「臨床仏教師」や「未来の住職塾」といった超宗派の僧侶が集う研修の機会に巡り合った。「人々のためのお寺」という目標が明確になり、宗派を超えた僧侶たちとの交流が久住住職の心に変化をもたらした。「他宗派への敬意を持つことができ、同時に自分の宗派や教義も大事にするようになった」。月に一度の「浄心道場」には各宗派の僧侶を講師として招き、久住住職もまた、他宗のお寺に呼ばれる。
印象深いこともあった。静岡県の真宗寺院に呼ばれた時のこと。他宗への敬意を持ちつつも、どこかでお勤めの際の「お念仏」に抵抗があった。ところが真宗の住職は「今日は日蓮宗の坊さんが法話に来てくれましたので、みんなでお題目を唱えましょう」と言ってくれた。「俺って小っちゃえな、って思いました」と笑って振り返る久住住職。法話後には共に念仏を称えた。「宗派は違えど、仏教全体を盛り上げようという人たちに励まされている」
妙法寺は「檀家」だけでなく、「信徒」と「お便り会員」という「お付き合い」を提唱する。信徒は年会費(護持費)5千円が必要だが、「お便り会員」は会費がなく、年4回の寺報のうち2回を送る。ただ、「お便り」の人もお付き合いを重ねるなかで檀家・信徒になっていくケースも多いという。「末長くお付き合いをするのにいきなり檀家さんというのもハードルが高い。まるで結婚するか、他人か、と迫るようなもの。まずはお友だち(お便り会員)から始めませんか、ということです」と久住住職。程よい距離感がお寺の門戸を叩きやすくすることにつながっているようだ。
 お寺が培ってきた仏事文化に新たな風を吹き込んで創意工夫を続ける。「お寺には可能性はたくさんあるんです」と充実感を滲ませ、自然とこんな言葉がこぼれる。お坊さんて楽しい―。

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