埼玉県川越市・最明寺
埼玉県川越市の天台宗最明寺では困窮家庭を支援するフードパントリーをコロナ禍の3月から始め、今夏からは地元の団体「川越子ども応援パントリー」と協働し学習支援「寺子屋」が始動。同じ取り組みが市内の日蓮宗本応寺でも共に行われている。千田明寛副住職(32)は「町に開き、地域の人たち連携しながら、最明寺を世界で最も明るいお寺にしたい」と話す。
教育格差を埋める「寺子屋」
10月初旬、乳がん啓発のためのピンクリボン月間として、夕刻から本堂がピンク色にライトアップされた。境内には続々と子どもたちが集まり「寺子屋」がスタートした。
児童扶養手当を受給する貧困家庭の小中学生を対象に、個別指導による寺子屋が始まったのは8月。最明寺では月曜日、本応寺では日曜日に開講する。元教員や大学生、プロの塾講師らがボランティアで勉強を教える。最明寺では「特に受験を迎える中学3年生の参加が多い」と千田さん。コロナ禍で学校が休校になり子どもや親たちが勉強への不安をみせるようになり、当初から構想していた寺子屋を前倒しで始めた。
川越パントリーの時野閏代表は、フードパントリーは「一方通行」の支援だが、子ども食堂や寺子屋のような時間を共有する「場」の大切さを強調し、「貧しい家庭の子どもが勉強の機会に恵まれず〝仕方がない〟と諦めてしまうことがある。しかし、夢をもち、それを叶える方法がたくさんあることを関わりの中で伝えたい」と話す。「相談相手として色々な経験をもつ講師がいますし、何よりもお坊さんがいる!」と、お寺を会場にする心強さを口にする。
外部との連携で広げる輪
「これはお寺あるあるですが…」と千田さんが言うのが、「お寺で何かを始めも途中で頓挫してしまう」ことだ。「おそらく住職一人で全部やろうとするからだと思います。だから、私は必ず誰かと一緒にやる。そのほうが相乗効果も生まれます」。子どもの貧困支援、ピンクリボンへの参加、そして今春からはLGBTQ支援も始めた。川越市では1月に埼玉レインボープライド2020を開催、5月には「パートナーシップ宣誓制度」を導入した48番目の自治体となった。この機に、最明寺では「同性結婚式」ができる仕組みを整えて発信。国内外から問い合わせがあり、中国やオーストラリアの同性カップルからの予約が入っているという。
最明寺では性的マイノリティの当事者団体と協力して『SAITAMA RAINBOW フェスティバル』も開催中。同性婚をテーマにした映画上映会、地元和菓子屋とのレインボー和菓子の共同開発、曹洞宗僧侶の折橋大貴氏が講師になりレインボーカラーを使った「フレンチ精進料理の会」など、様々なイベントが行われている。
異業種交流で学んだネットワーク作り
千田さんが自身の原点というのがインド留学の体験だ。僧侶になった25歳、インド中西部にある天台宗寺院・禅定林に1年間留学した。「人の生老病死に向き合っていくのがお釈迦様の説いた仏教」と千田さん。僧侶養成課程で日本仏教史を学ぶと社会的活動をする多くの僧侶たちがいたが、「今の日本仏教はどうか?」と疑問も湧いた。インドでは多くの宗教者たちが孤児院や学校の建設、医療支援などを通して、「人の生に向き合っていた」。その光景をみて「これだ!と強烈に思った」と思い返す。マイノリティだった千田さんにもリスペクトを持って接してくれたインドでの体験は「町に開き、地域と連動して、生老病死に関わっていくお寺」を志すことにつながっている。
帰国後は異業種とのネットワーク作りに力を入れ、積極的に地元の商工会や催しに足を運んで交流を広げた。「町に出て感じたのはお寺を会場にして何かしたいという潜在的ニーズがあること。けれど、お寺が怖いのか声をかけにくいようです。だから私は自分から出ていくスタンス。今では何かやりたいと思う方に、『話は聞いてくれる』と思ってもらえている」。お寺を出てニーズをつかみ、それをお寺に活かす。年を追うごとに手ごたえを感じている。
活動で大切なことにも気づいた。「広報をしっかりやること」。千田さんはSNSで発信するほか、自らプレスリリースを作成し、県庁の記者クラブに足を運んで広報している。「見てもらうための活動じゃない、と言う方もいるかもしれませんが、良いことをしても発信しなければ知られないままです。これだけお寺から人の心が離れているなか、広報に関してはすぐにでも改善が必要だと感じます」と提言する。